コミュニティ排水処理事業、第2年次を終えて ―地方政府の自己負担による設置が始まる―
2017年2月から、処理水質の良好な、住民参加型のコミュニティ排水処理システムを広域的に普及させるための事業が、外務省の日本NGO連携無償資金協力の資金を得て始まりましたが、三年計画の事業の第2年次が終わり、第3年次が始まりました。今回は、2018年11月から2019年4月までの状況をご報告します。

<コミュニティ排水処理事業のめざすもの>
インドネシアは、順調な経済発展をしているにかかわらず、都市部の衛生環境は劣悪で、また水質汚濁も依然として深刻です。それらの問題を解決していくためには、生活排水や産業排水をきちんと処理するしかありませんが、工業化の進んだ国々で普通に行われている大規模集中型下水道は、多大な投資と長期の建設期間を要するため、近い将来に普及していくことは望み薄です。現実的な解決策として、近年、コミュニティレベルの衛生改善策が注目され、多くの自治体で実施されるようになっていますが、これまでのコミュニティ排水処理は、嫌気性処理のみを行なうものでした。それでは満足な処理水質が得られず、生活排水基準も充たせないため、この事業では、嫌気性処理と好気性処理を組み合わせた、安価で運転管理が容易でありながら処理水質が良好なシステムを普及させようとしています。その中の好気性処理としては、独自開発の立体格子状接触体回転円板式排水処理装置を用いています。この事業にいたるまでは、地方政府との打合せに始まり、システムを設置するコミュニティの選択、住民との合意形成、設計、工事、運転管理の研修、引き渡しにいたるまで、すべて自分たちで行う直営方式でモデルシステムを設置してきましたが、それでは設置できる数は限られています。今回の事業では、インドネシアで通常に行われているコミュニティ衛生改善の施策の中で、このシステムが技術選択肢のひとつとして普通に選ばれ、設置・運転されていくようになることをめざしています。

<第2年次の到達点>
表1は、第2年次の活動計画と、実績を対比して示したものです。技術の周知活動では、平均20名以上の参加を得て、計6回以上実施する計画だったところ、平均31名の参加を得て11回実施、事業の中核となるモデルシステムの設置については、15基以上設置の計画だったのが17基設置、人材育成分野では、プログラム研修を、25名以上の参加で4回以上実施する予定だったところ、平均38名の参加で5回実施するなど、全体として計画を上回る実績を上げています。

<地方政府/住民の自己負担による設置が始まる>
第2年次の特記事項として、地方政府/住民が、回転円板を自己負担により調達するケースが出てきたことがあります。中部ジャワ州パティ県(4台)、同州スマラン県(2台),西ジャワ州バンドゥン県(1台)がそのようなケースです。ただ、現状のコミュニティ排水処理の予算ではすべてをまかなえない場合が多く、このため、回転円板を二つのパーツに分割して、一方のパーツを先方の予算で、他方を事業予算で負担する、という部分的援助システムで導入してもらったりしています。嫌気性処理だけのシステムの建設コストと、事業で推奨しているシステムの建設コストは、推奨システムだと嫌気性部分を格段に小さくできるため、回転円板を付け加えても、全体ではあまり変わらないのですが、ただ最近は、嫌気槽にプラスチックのメディアを詰めたコンパクトなタイプの嫌気槽がよく用いられるので、そのための予算では、推奨システムの設置にはやや不足します。嫌気性処理だけでは、処理水が国の基準を充たす性状にならないことは明らかなので、国としても、そのへんを認識して、もう少し予算をふやしてほしいです。
地方政府/住民の自己負担で、事業の予算にも余裕が出ましたが、その分は、設置基数の追加や、設置済の施設で改善が必要となった場合の補修費用にまわすようにしています。

<処理水の再利用が進む>
もうひとつの特記事項としては、推奨しているシステムでは処理水質が高いという認識が住民に根付いて、処理水を魚の養殖等に利用する動きが広がってきたことがあります。第1年次設置分ではジョクジャカルタ特別州ジョンカン地区が、処理水により魚の養殖しており、養殖池の増設を進めています。第2年次設置分では、同州スコハルジョ村メンディロ地区、同州イブヌル・コイイム校(寄宿制のイスラム学校)が処理水で魚を飼育している他、同州スロルタニ村も同様に魚の飼育を計画しています。パティ県などで、処理水が水田に流れ込んで、灌漑に利用されるケースもあります。
特にモデル的意味が大きく見学者も多いのが、上記のスコハルジョ村メンディロ地区の施設です。もともとカフェと集会所と図書室を合わせたようなスペースの地下に嫌気性処理設備をつくり、処理水が、植物を植えた砂利の層を通って(コンスラクテッド・ウェットランドという一種の好気性処理をまねたものと思いますが、それにしては小さすぎます)、池に入り、そこで魚を飼うという発想でつくられたものですが、実質的に嫌気性処理だけなので臭気があり、また処理水で魚を育てるのも、水質的にむずかしさがあります。そこに、今回の事業で、好気性処理である回転円板を加えたことで、臭気がなくなり、処理水質が上がって魚も飼えるようになりました。子供や中・高校生のたまり場的な場所でもあるので、教育的意味もありそうです。

<チケンバン>
第2年次に設置した中で、もう一か所印象に残ったのが、西ジャワ州バンドゥン県チケンバン村の施設でした。こちらは、MCK(Mandi Cuci Kakus)という、公衆トイレと水浴び場と洗濯場を兼ねた設備の排水を処理するものです。やはり、以前は嫌気性処理のみを行うものでしたが、悪臭がするので、回転円板の導入を希望され、それに応じたものです。100軒くらいの家庭がこのMCKを使っていて、みなさんのようすから回転円板が歓迎されているのを感じました。この当たりはジャガイモの産地のようですが、おみやげに、大きな網袋に入ったジャガイモをくれました。夕暮れに、このMCKから、タオルを肩にかけて家に帰るお婆さんのようすが、まるで銭湯で一風呂浴びて、ああ、気持ちよかった、と帰る感じに似ていました。

<第3年次の署名式>
そうこうするうちに、申請を出していた第3年次事業の審査が無事に終わり、2019年2月27日に、ジャカルタの日本大使館で、第3年次事業の署名式がありました。石井大使とは、昨年も署名式でお会いしましたが、この事業のことを覚えていてくれたのがうれしかったです。また、かなりの報道陣が入り、計8件ほどのメディアで取り上げられました。事業内容としては、第3年次も、おおよそ第2年次と同じですが、セミナーを開催したり、排水処理適正技術マニュアルを出版したり、といった活動が加わります。

そのように、相当に順調な流れの中で事業の第2年次を終え、2019年3月から第3年次に入りました。住民の方々によろこんでもらえるように、また、はりきって仕事にとりかかりたいと思います。(田中直)

<コミュニティ排水処理事業のめざすもの>
インドネシアは、順調な経済発展をしているにかかわらず、都市部の衛生環境は劣悪で、また水質汚濁も依然として深刻です。それらの問題を解決していくためには、生活排水や産業排水をきちんと処理するしかありませんが、工業化の進んだ国々で普通に行われている大規模集中型下水道は、多大な投資と長期の建設期間を要するため、近い将来に普及していくことは望み薄です。現実的な解決策として、近年、コミュニティレベルの衛生改善策が注目され、多くの自治体で実施されるようになっていますが、これまでのコミュニティ排水処理は、嫌気性処理のみを行なうものでした。それでは満足な処理水質が得られず、生活排水基準も充たせないため、この事業では、嫌気性処理と好気性処理を組み合わせた、安価で運転管理が容易でありながら処理水質が良好なシステムを普及させようとしています。その中の好気性処理としては、独自開発の立体格子状接触体回転円板式排水処理装置を用いています。この事業にいたるまでは、地方政府との打合せに始まり、システムを設置するコミュニティの選択、住民との合意形成、設計、工事、運転管理の研修、引き渡しにいたるまで、すべて自分たちで行う直営方式でモデルシステムを設置してきましたが、それでは設置できる数は限られています。今回の事業では、インドネシアで通常に行われているコミュニティ衛生改善の施策の中で、このシステムが技術選択肢のひとつとして普通に選ばれ、設置・運転されていくようになることをめざしています。

<第2年次の到達点>
表1は、第2年次の活動計画と、実績を対比して示したものです。技術の周知活動では、平均20名以上の参加を得て、計6回以上実施する計画だったところ、平均31名の参加を得て11回実施、事業の中核となるモデルシステムの設置については、15基以上設置の計画だったのが17基設置、人材育成分野では、プログラム研修を、25名以上の参加で4回以上実施する予定だったところ、平均38名の参加で5回実施するなど、全体として計画を上回る実績を上げています。

<地方政府/住民の自己負担による設置が始まる>
第2年次の特記事項として、地方政府/住民が、回転円板を自己負担により調達するケースが出てきたことがあります。中部ジャワ州パティ県(4台)、同州スマラン県(2台),西ジャワ州バンドゥン県(1台)がそのようなケースです。ただ、現状のコミュニティ排水処理の予算ではすべてをまかなえない場合が多く、このため、回転円板を二つのパーツに分割して、一方のパーツを先方の予算で、他方を事業予算で負担する、という部分的援助システムで導入してもらったりしています。嫌気性処理だけのシステムの建設コストと、事業で推奨しているシステムの建設コストは、推奨システムだと嫌気性部分を格段に小さくできるため、回転円板を付け加えても、全体ではあまり変わらないのですが、ただ最近は、嫌気槽にプラスチックのメディアを詰めたコンパクトなタイプの嫌気槽がよく用いられるので、そのための予算では、推奨システムの設置にはやや不足します。嫌気性処理だけでは、処理水が国の基準を充たす性状にならないことは明らかなので、国としても、そのへんを認識して、もう少し予算をふやしてほしいです。
地方政府/住民の自己負担で、事業の予算にも余裕が出ましたが、その分は、設置基数の追加や、設置済の施設で改善が必要となった場合の補修費用にまわすようにしています。

<処理水の再利用が進む>
もうひとつの特記事項としては、推奨しているシステムでは処理水質が高いという認識が住民に根付いて、処理水を魚の養殖等に利用する動きが広がってきたことがあります。第1年次設置分ではジョクジャカルタ特別州ジョンカン地区が、処理水により魚の養殖しており、養殖池の増設を進めています。第2年次設置分では、同州スコハルジョ村メンディロ地区、同州イブヌル・コイイム校(寄宿制のイスラム学校)が処理水で魚を飼育している他、同州スロルタニ村も同様に魚の飼育を計画しています。パティ県などで、処理水が水田に流れ込んで、灌漑に利用されるケースもあります。
特にモデル的意味が大きく見学者も多いのが、上記のスコハルジョ村メンディロ地区の施設です。もともとカフェと集会所と図書室を合わせたようなスペースの地下に嫌気性処理設備をつくり、処理水が、植物を植えた砂利の層を通って(コンスラクテッド・ウェットランドという一種の好気性処理をまねたものと思いますが、それにしては小さすぎます)、池に入り、そこで魚を飼うという発想でつくられたものですが、実質的に嫌気性処理だけなので臭気があり、また処理水で魚を育てるのも、水質的にむずかしさがあります。そこに、今回の事業で、好気性処理である回転円板を加えたことで、臭気がなくなり、処理水質が上がって魚も飼えるようになりました。子供や中・高校生のたまり場的な場所でもあるので、教育的意味もありそうです。

<チケンバン>
第2年次に設置した中で、もう一か所印象に残ったのが、西ジャワ州バンドゥン県チケンバン村の施設でした。こちらは、MCK(Mandi Cuci Kakus)という、公衆トイレと水浴び場と洗濯場を兼ねた設備の排水を処理するものです。やはり、以前は嫌気性処理のみを行うものでしたが、悪臭がするので、回転円板の導入を希望され、それに応じたものです。100軒くらいの家庭がこのMCKを使っていて、みなさんのようすから回転円板が歓迎されているのを感じました。この当たりはジャガイモの産地のようですが、おみやげに、大きな網袋に入ったジャガイモをくれました。夕暮れに、このMCKから、タオルを肩にかけて家に帰るお婆さんのようすが、まるで銭湯で一風呂浴びて、ああ、気持ちよかった、と帰る感じに似ていました。

<第3年次の署名式>
そうこうするうちに、申請を出していた第3年次事業の審査が無事に終わり、2019年2月27日に、ジャカルタの日本大使館で、第3年次事業の署名式がありました。石井大使とは、昨年も署名式でお会いしましたが、この事業のことを覚えていてくれたのがうれしかったです。また、かなりの報道陣が入り、計8件ほどのメディアで取り上げられました。事業内容としては、第3年次も、おおよそ第2年次と同じですが、セミナーを開催したり、排水処理適正技術マニュアルを出版したり、といった活動が加わります。

そのように、相当に順調な流れの中で事業の第2年次を終え、2019年3月から第3年次に入りました。住民の方々によろこんでもらえるように、また、はりきって仕事にとりかかりたいと思います。(田中直)
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